うつ病:適切な治療を受けているのは1/4 学会、研修の実施検討
企業の合理化とコスト削減で、仕事量が増え、うつ病に悩む会社員も増えている。きちんとした治療で完治も可能だが、「適切な治療を受けているうつ病患者は全体の4分の1に過ぎない」(中根允文・長崎大学名誉教授)との指摘もある。日本うつ病学会は適切な治療のできる精神科医の養成が急務だとして、研修の実施を検討している。【中村美奈子】
◇セカンドオピニオン有効
うつ病の治療は「1種類の抗うつ剤を一定期間、一定量出す」というのが基本で、症状を診ながら別の薬に切り替えていく。だが、こうした治療方法を知らない医師が多く、問題になっている。精神疾患は統合失調症、パニック障害、アルコール依存症など多岐にわたり、うつ病の治療法をきちんと知らない精神科医が多いという。
うつ病は不適切な治療を続けると治療期間が長引き完治が望めない。だが患者は精神科医というだけで「精神疾患全般を治せる」と思いがちで、不適切な治療に気づかないという。うつ病患者から職場復帰の相談を受けてきた内科出身の富士電機システムズの産業医、堀川直人さん(43)は「2種類の薬を少量しか出されていない患者が多く治療に疑問を感じる」と話す。
7月の同学会で堀川さんは何カ月も2種類の薬を少量ずつ服用し、セカンドオピニオンを勧めた患者のケースを報告。この患者はセカンドオピニオンをもらいに行った病院で治療を受け直し、抗うつ薬を1種類に絞り、徐々に増量したところ、回復し、職場復帰を果たした。堀川さんは「精神科もセカンドオピニオンが有効」と話す。
うつ病患者は別の医師に症状を改めて説明することが気疲れの原因となり、セカンドオピニオンを嫌がる傾向にあり、堀川さんは紹介状に病状の経緯を書いた書類を添えている。お薬ノートを見せ、経緯をA41枚に家族がまとめても参考になるという。
日本うつ病学会も、うつ病の治療が適切にできる医師の養成が急務だとして、来年度から研修を行い、修了者には認定証を出すことを検討。また、病院選びについて国立精神・神経センター武蔵病院の樋口輝彦院長は「当面は大学病院や総合病院の精神神経科、うつ病専門の開業医にかかるのがよい」と話す。
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◆適切な薬物療法の6条件◆
(1)標準治療を知っている
(2)副作用とその対策を熟知
(3)薬の種類を減らそうとする
(4)複数の薬を使う際、納得できる説明ができる
(5)薬の少量投与(ちょこ出し)をしない
(6)薬の飲み心地をいつも聞く
※防衛医科大学校精神科学講座・野村総一郎教授による
毎日新聞 2006年9月27日 東京朝刊