“飲む酢”人気 首都圏にドリンクスタンド
《全国展開も視野》
「朝や夕方は、あっという間に人だかりができます」
そう話すのは、6月29日にJR新橋駅(東京都港区)構内にオープンした健康ドリンクスタンド「黒酢バー」の岩田明子店長。
最近の売れ筋トップ3は、1位が「純粋玄麦黒酢(150円)」、2位が「黒酢&ブラッドオレンジ(300円)」、3位が「黒酢&豆乳(250円)」という。この3つを含む全11種の「お酢ベース」ドリンクを気軽に楽しめる点が受けている。
母親と立ち寄った女子大生(21)は、「料理の酢の物は食べられないんですが、ドリンクはとてもおいしく、これなら飲めます」。東新橋の会社に行く途中で立ち寄った会社員の男性(64)は、「週に4日は寄るかな。元気が出る感じがするので飲んでます」。既に熱心なリピーターとなっている様子だ。
黒酢バーでは、食品メーカー、キユーピーの大麦の黒酢を使う。口当たりがまろやかで、のどごしが良いのが特徴だ。
新橋での好調を受け、8月1日には千葉県市川市のJR市川駅構内にもオープンした。
「黒酢バー」を発案した日本レストランエンタプライズの大木賢一営業開発部副部長は、社内の理解を得るのに苦労したと振り返る。「社内では、酢のドリンクバーという珍しさに、なかなか理解が得られませんでした。でも、いざ始めたら当初の売り上げ目標の2倍を達成し、拡大する運びになりました」
今後については、「8月末に渋谷駅(東京)構内にオープンするほか、駅以外にもショッピングセンター内などにも展開する計画です。フランチャイズのような形で関西圏にも進出したいですね」と全国展開も視野に入れる。
《“こだわり派”増》
猛暑や一転しての台風、雨が降ったりやんだりなど、今年は不順な天候が続く。そんな状況から夏バテしている方も多い。そこで、このところ、おいしい「飲む酢」で健康増進に励み、夏バテ知らずという人が増えている。
飲む酢は先ほどのバーだけでなく、スーパーなどでも買える。一歩進んで。希少な酢にこだわる人も増えている。
医師など専門家が開発したサプリメント(健康補助食品)などを扱うビレッジ・ファルマ(東京都千代田区)は、鹿児島県加計呂麻(かけろま)島でしか醸造できないという「加計呂麻島きび酢」を6月に発売。「すでにリピーターもいます」(ビレッジ・ファルマ管理栄養士・山崎和博さん)というほどの人気を得た。
秘けつはサトウキビの栽培から自然発酵、熟成まで約3年もかけて作られることにある。その酢はは、「ミネラル分やポリフェノールが豊富で、しかもきついにおいがなく、味はまろやかです」(山崎さん)。3990円(720ミリリットル)で、通信販売や一部の薬店で入手できる。
1月にオープンした東京・白金台の大人の隠れ家のような雰囲気のあるバー「CALMA(カルマ)」では、このきび酢を用いた梅酒ベースの身体に優しいカクテルの提供を始めた。オーナーの浅川康明さんは話す。「当面は『隠れメニュー』としてリクエストがあれば提供しますが、好評なら定番メニューに加えたいですね」。
「飲む酢」ブームは、2004年にミツカンが発売した「純玄米黒酢」のヒットなどで火がつき、市場調査会社インテージによると、もろみ酢を除いた04年の飲用酢市場規模は前年比73%増の304億円まで急成長した。調理用の需要を逆転したほど人気を博した。
ただ、「おいしく飲み続けるための提案が足りなかった」(ミツカングループ本社コーポレートコミュニケーション部の田辺裕佳さん)ことなどから、05年には04年に比べて21%減の240億円まで下落した。もっとも、引き続き調味料需要を上回ってはいる。
田辺さんは「生活習慣病の危険性を高めるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防のためにも、1日大さじ1杯(15ミリリットル)の酢を取り入れてほしい。りんご酢ならばサイダーなど、黒酢は野菜ジュースやお茶の飲料と組み合わせると意外においしい。水で割るだけでは飽きてしまうので、いろいろな飲み方を試してみてはいかがでしょうか」と提案する。
酢は、健康やダイエットのために「我慢して飲む」という時代から、「おいしく、おしゃれに飲む」時代に入ったようだ。(那須慎一)
(フジサンケイ ビジネスアイ) - 8月20日8時32分更新